心不全の勉強会を行いました ― 増え続ける心不全患者さんに寄り添うために ―
2026年9月9日、ふくぎ訪問看護ステーションの事務所にて、スタッフ全員で「心不全」をテーマにした勉強会を行いました。
訪問看護の現場では、心不全をお持ちの利用者さんと関わる機会が年々増えています。今回は、あらためて基礎から最新の治療までを整理し、日々のケアの質を高めることを目的に開催しました。
1. 「心不全パンデミック」― 患者数は全国的に増加
高齢化の進行にともない、わが国の心不全患者数は増え続けており、2035年には約132万人に達すると推計されています。この状況は「心不全パンデミック」とも呼ばれ、循環器領域における大きな社会的課題となっています。
心不全は入退院を繰り返しやすい疾患であり、病院だけでなく在宅での療養支援がますます重要になっています。私たち訪問看護師が果たすべき役割も、それだけ大きくなっていると感じています。
2. 心不全とは何か ― 原因はひとつではない
日本循環器学会・日本心不全学会は、心不全を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と一般向けに定義しています。
心不全は単一の病気ではなく、さまざまな心疾患の「終着点」として現れる症候群です。主な原因には次のようなものがあります。
- 虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)
- 高血圧性心疾患
- 弁膜症
- 心筋症(拡張型・肥大型など)
- 不整脈(心房細動など)
- 先天性心疾患、その他
また、左室駆出率(LVEF)によって HFrEF(収縮不全)・HFmrEF・HFpEF(拡張不全)に分類され、高齢者では HFpEF の割合が高いことが知られています。
3. ステージ分類 ― 早期発見・早期治療の重要性
心不全は ACC/AHA のステージ分類(A〜D)で進行度を捉えます。
| ステージ | 状態 |
|---|---|
| A | 心不全のリスクがある(高血圧・糖尿病・動脈硬化など)が、心臓の器質的異常も症状もない |
| B | 心臓に器質的異常があるが、心不全の症状はない |
| C | 心不全の症状が出現している、または既往がある |
| D | 治療抵抗性で、入院を繰り返す・特別な治療を要する |
このステージ分類は「一方通行」であり、後戻りはしないとされています。だからこそ、ステージ A・B の段階で危険因子を管理し、発症・進行を防ぐことが大切です。症状の重さを示す NYHA 分類(I〜IV度)とあわせて評価することで、利用者さんの状態を多面的に把握できます。
4. 心不全治療薬 ― 「Fantastic Four」
近年、HFrEF の薬物治療は大きく進歩しました。現在、予後改善のエビデンスが確立している 4 系統の薬剤は「Fantastic Four(ファンタスティック・フォー)」と呼ばれています。
- ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)/ ACE 阻害薬・ARB
- β遮断薬
- MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
- SGLT2 阻害薬
特に SGLT2 阻害薬は、もともと糖尿病治療薬として開発されながら、糖尿病の有無にかかわらず心不全の予後を改善することが示され、HFpEF にも効果が認められた点で注目されています。
このほか、うっ血症状の緩和には利尿薬が用いられ、患者さんによっては HCN チャネル遮断薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬などが追加されます。訪問看護師としては、それぞれの薬剤の作用と副作用(低血圧・徐脈・脱水・高カリウム血症など)を理解し、服薬状況や体調変化を丁寧に観察することが求められます。
5. 心不全の予後 ― だからこそ在宅ケアが大切
心不全の予後は決して楽観できるものではありません。ステージ C 以降では、5 年生存率はおよそ 50% 程度と報告されており、これは多くのがんに匹敵するか、それ以上に厳しい数字です。ステージ D ではさらに不良となります。
増悪による入退院を繰り返すたびに心機能は段階的に低下していくため、「増悪を起こさせない」ことが在宅ケアの最大の目標になります。具体的には、
- 体重・血圧・脈拍・浮腫・息切れなどの日々のモニタリング
- 塩分・水分管理、服薬アドヒアランスの支援
- 増悪の早期サインを見逃さず、主治医へ迅速に報告・連携すること
- ご本人・ご家族へのセルフケア教育
- 進行期には、意思決定支援や緩和ケアの視点を持つこと
といった関わりが、利用者さんの生活の質を守ることにつながります。
おわりに
今回の勉強会を通じて、心不全という疾患の全体像と、私たち訪問看護師に求められる役割をあらためて共有することができました。
ふくぎ訪問看護ステーションでは、こうした学びの機会を定期的に設け、スタッフ一人ひとりが最新の知識をもとにケアにあたれるよう努めています。今後増加が予想される心不全の利用者さんに対して、安心して在宅療養を続けていただけるよう、これからも学びを重ねてまいります。
参考
- 日本循環器学会/日本心不全学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン」および最新のフォーカスアップデート
- 日本心不全学会「心不全の定義」
- Heidenreich PA, et al. 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure

